「セイ……」
美留久がやっとのことでその名を口にした時、もうそこに聖夜の姿はなかった。
美留久は止めどなく溢れる涙を拭うことなく立ち上がった。
自分の存在そのものが聖夜を苦しめている。
恐れていた疑念が、確信となった。
美留久はその場に居たたまれなくなり、玄関から外へと飛び出した。
こんな哀れな姿で家には戻ることはできなかった。
美留久は遥か彼方に光る街の明かりに引き寄せられるように歩き出す。
行く当てなどある訳もなかった。
冬の訪れが感じられる十一月。
寒空の下、美留久はコートも羽織らぬ薄い部屋着のまま歩き続けた。
溢れ出る涙が、美留久の視界を遮った。
目に映るのは、輝く街の明かりだけ。
遠くに輝く街の明かりが、美留久には微かな希望のように見えたのだ。



