「おい、そこのデカイの、顔かせ」
毎度のことながら、入学して何度目かの呼び出しを食らう聖夜。
無愛想でやぶ睨みのくせに、身体が大きく、美しい顔立ちの聖夜は、いかにも反抗的で強そうに見えたのだ。
出る杭は打たれる。
不穏の芽は小さいうちに摘み取れ。
海浜工業高校、略して海工には学年毎に幾つかの不良グループがあり、聖夜はその一つ一つから呼び出しを受けていた。
呼び出しには応じるものの、聖夜には売られた喧嘩を買う気などさらさら無かった。
聖夜には抵抗する気も反撃する気力もなかった。
打ちのめされて、壊れて、それで死ねたら、それでも良かったのだ。
「セイに手出しはさせない。相手ならあたしがするよ」
けれど決まってその場には、聖夜の大きな身体を庇うように美留久が付き添った。
彼女が聖夜の身体を気遣って、喧嘩を代わりに引き受けようとしているのが分かっていたから。
それがまた聖夜の気分を重くした。



