「パパ、急いで! 美留久の出番が始まっちゃう」
「聖夜、少し落ち着きなさい。
時間は大丈夫だから。
パパが超特急で駆けつけるから、余裕で間に合うよ」
焦っているのが自分だけであることに、聖夜は苛立ちを隠せなった。
「でも……、嗚呼……
今日は美留久の晴れ舞台の日だよ、寝坊なんて信じられない……
美留久に嫌われたらどうしよう……」
聖夜は拳を握り締め、大樹のヘッドレストを何度も叩いた。
そんな聖夜の様子をジョセフィーヌは複雑な思いで眺めていた。
(聖夜の美留久ちゃんを大切にしたい想いは、愛、かしら……)
自分の息子が恋する姿が、嬉しくもあり寂しくもあった。
(でも、わたしもこの人に恋をしたんだわ)
ジョセフィーヌは、自分の隣りでハンドルを握る愛する夫の横顔に、息子と同じ面影を見つけ苦笑した。
(あらやだ、そうよ聖夜はこの人とわたしの息子なんだわ)
今のこの時間が二人の愛の証なのだ。
彼女はそう気づき、更に幸せな気持ちに包まれた。



