「ママンは人使いが荒いな」
大樹はそう不平を言いながらも、自転車を漕いで駅前の花屋までブーケを取りに行った。
<チュッ>
「パパ、ありがとう。素敵、これならきっと美留久ちゃんも喜ぶわ」
大樹にキスをして、ジョセフィーヌはその労をねぎらった。
見立て通りの出来映えのブーケに彼女は満足し、それを手にした息子の可愛い恋人の喜ぶ顔を想像して嬉しくなった。
そして、その間に身支度を整えた聖夜を乗せて、三人はコンクールの行われる街の公会堂目指して車を走らせたのだ。
大樹が車を運転し、助手席にはジョセフィーヌが、そして大樹の後部座席に聖夜が座るという、いつも通りの定位置だった。
あの日、聖夜は大樹の背に話しかけながら、優しく自分を見つめるジョセフィーヌの視線を時折感じながら、少しばかり気が急いて、落ち着かない気分でソワソワしていた。



