その場を逃げてきた美留久だったが、聖夜を一目見たいという気持ちを押さえることはできなかった。
心の中で薄れかけてきた聖夜の面影を、なんとかまた強く焼き付けて置きたかったのだ。
どれだけ背が伸びたか。
髪型はどんなだか。
そして、大好きなブルーグレーの瞳がまた見たかった。
美留久は出迎えゲートから少し離れたところにあるカフェに目を留めた。
(そうだ、ここで、遠くからでも聖夜を一目見れればいい)
美留久は壁に鏡を貼ったカウンター席に一つ空きを見つけると、そこに静かに腰を下ろした。
鏡を覗くと、ベンチを隔てたその向こうに、父の大きな姿が映って見えた。
(聖夜に会える……)
美留久は小さく、安堵の息を吐いた。
それは今の美留久に出せる、精一杯の勇気だった。



