「どーも、東先パイ」

爽やかな笑みを浮かべて里香のことを呼ぶ男。
名を、古賀相馬といった。
中学の時からの後輩である。

「今すぐ消え失せろ、獣め」
「男は狼ってやつですか? あはっ、古いですねー」
「里香ぁ! 逃げろ!」

私とこの馬鹿は、三年間喧嘩を続けてきた。
理由は簡単。
こいつが、里香を誑かすからだ。

古賀はどうしようもない女たらしである。毎日違う女をはべらせているのを見たからな。
それでなくとも、有名だ。女たらしの古賀。

とうとう奴は里香を口説くようになった。
純真無垢な里香に、こんな汚物を近付かせる訳にはいかない。
というわけで戦争が勃発している。

「まず古賀。その髪は何なんだ」
「いやー、俺、天パですし」
「そんなの嫌でも知ってる。髪色だ」
「…………地毛?」
「中学の時には黒かっただろ。よくそんな見え透いた嘘をつけるな」

古賀相馬は、見た目はよかった。見た目だけは。
170後半か180かは知らんが、高い。で、細い。
それに優しそうな顔。中身は真っ黒だが。
何か、垂れ目ってムカつく。それがいいらしいが。

「ああー、いっちゃん。遅刻するよ?」
「…………チッ。覚悟しとけよ」
「今舌打ちしましたよね。うわあ、俺命の危機ー」

変なことを喚く生物を置いて、私と里香は二年玄関へと足を進める。
後ろから、「東先輩、今度映画行きましょーね」なんていう雑音。
それにイラついて、私は鞄を握る手の力を強めた。