一週間ほど前の話だ。

校舎裏の池で、村上さんを見かけた。

池の中央には、彼女のものと思しきバッグと散乱した教科書類が浮かんでいて、彼女はそれを拾いに池に入っていた。

状況から推測するにそれは、いじめってやつなんだと思う。

その時は、つまらないことをする奴がいるものだと思っただけだった。

実際にいじめの現場を目撃してしまったとして、出てくる感想はそんなものだろう。

だって彼女は他人で、言わば対岸の火事なのだ。

俺の日常とは離れたところで起こっている事件。

それは俺にとって、明日が提出期限の課題よりもどうでもいいことだった。

だから、彼女が初めて体育館の屋根に現れたときは驚いた。

陰のあるような表情で俺の隣に座り、「村上です」と簡潔に自己紹介をしたかと思ったら、世間話を始めた彼女。

いじめは、いじめられる側にも問題があるなどと良く言われるが、そんなわけがない。

それが、俺が彼女と話をして最初に抱いた印象だった。

少し緊張した様子で、時々俺の人間性を探るように表情を覗いてきた彼女。

この体育館の屋根の上が、彼女にとっての居場所になるかどうか不安だったのだと思う。

彼女はとても普通で、とても弱い、どこにでもいる女の子だった。

その日から俺にとって、彼女が受けているいじめは対岸の火事ではなくなった。

彼女をいじめから救う、なんて大層なことは出来ないけど、ここで彼女の居場所になってあげることくらいは出来ると思っている。

クサイけど、こんな俺でも誰かの役に立つのなら、密かな一時間の楽しみくらいくれてやってもいいと思えるのだ。