彼女とここで何をしているのかと言えば、他愛のない世間話だ。

昨日、友達と服を買いに出かけたこと。

最近観た映画が、酷くつまらなかったこと。

友達に薦められて聞いてみた音楽が、すごく良かったこと。

ほとんどが彼女の近況報告で、話の内容は退屈だったが、ころころと変わる彼女の表情を眺めているのは楽しかった。

一時間というのは短いもので、それだけで昼休みが終わってしまう。

チャイムが昼休みの終わりを告げる頃、彼女は名残惜しそうにこう言う。

「それじゃあ、先輩。また明日」

だから俺は、こう返す。

「…ああ、また明日」

もう二度と来ないでくれ。

俺の至福の時を邪魔しないでほしい。

そんな言葉を飲み込み、俺は彼女を見送る。

俺は彼女に冷たい態度を取ることが出来なかった。

だって、俺は知っていたから。

彼女、村上さんが、いじめを受けているということを。

彼女には居場所がないのだ。

教室にいられず、一人になれる場所を探していたのだろう。

そして、この場所で俺と出会った。

自分のことを知らない他学年の生徒であるところの俺は、彼女にとって都合の良い話相手だったのかもしれない。

そういう事情を知ってしまった俺は、彼女に対して冷たく当たるのには抵抗があった。

勿論ここで彼女と話すのは楽しいし、同情だけで一緒にいるわけではないのだけど、彼女のヒミツを知ってしまっていることに対する後ろめたさは多少なりとも感じる。

「さて、どうしようかなぁ」

今後の彼女への接し方について色々と思索しながら、俺は自分の教室へと戻った。