急にテンションが下がった様子のキュノスを促して博物館を出ると、買い物をして家に帰る。

「はぅ…」

 夕食を作りながら、キュノスはしきりにため息をつく。

「キュノス、手が止まってるぞ」

 俎を前に、キュノスは包丁を握ったまま上の空だ。

 何事がぶつぶつと呟いているが、小声で聞き取れない。

「こら、聞いてるのか」

 揺すってみても、こっちを見ようともしない。

「…はう…」

 ついに、キュノスの手が完全に止まる。

「どうしたんだよ」

 肩に手をかけて振り向かせると、やはり何事かぶつぶつ呟いている。

 口元に耳を寄せてみる。
 それでようやく聴きとれるほどの小さな声だ。

「あんな傷だらけで…どうして…」

「なんなんだよ、おい」

 さらに揺さぶると、ようやくキュノスの目が正常に戻る