『あの血の主は…生きてると思う?』

俺はそう言いたかったのだ。

でも、あの量から考えて生きている可能性は低いだろう。


ソレを想像してしまうとどうしても言えなかった。



暫く、沈黙が部屋を支配する。

明るい昼の光は差し込んでいるのに、この部屋は異様に暗い気がした。



「まぁ…俺らで考えても仕方ないだろ。
後で…あの子が起きてからじっくりしようや」

ふいにヤナセが立ち上がる。

あまり穏やかとは言えないその沈黙はヤナセにとって、心地良い物ではなかったからだろう。

…俺もだけど。


「あの子は何か知ってる筈だ。
彼女に訊けばすぐ分かるんじゃないか?」

「…かもね」


俺もゆっくり立ち上がった。



あの血はどこの誰のなのか。
あの少女は一体何を知っているのか。


たぶん、近いうちに分かるから。

俺は目にかかる前髪をかき上げた。





「あ、そういや」

強制的に朝食兼昼食を食べさせられている時。

ヤナセが思い出したというように話しだした。


「…何」


ヤナセお手製のチャーハンは少し味が濃くて、さっき文句を言ったら、はたかれた。


「お前さ、結構マトモな奴だよな。
俺が思ってたより」

「はぁ?」


おどけたように言うヤナセにその一言しか出て来なかった。

確かにヤナセよりはマトモな自信はあるが。


「いやさ、お前が道端で倒れてるような奴を助けてやるなんて、意外でなー。
あっさり見捨てそうなイメージだったからよ」


ヤナセはそう言って食べ終わった自分のチャーハンの皿をキッチンへ持って行く。

俺はその背中から目をそらし、スプーンを置いた。


(ヤナセ、あんたのイメージは正しいよ…)

俺はそこまでいい奴じゃない。



ただ…今日は…





(雨が降ってたから)


それだけ。