もの凄いことを言われたというのに、久世玲人が発した「アイツ」という言葉にとらわれた。

アイツって誰…?私が、選んだ…?


「誰っ…?何のこと…?」

「そこまで俺に言わせる気?」

「だってっ、分からないっ…」


分からない。

さっきからその言葉ばかりの私に、久世玲人はあきれたような息を吐く。


「別に、ごまかさなくていい。見たんだし」

「見たって…」

「だから…、―――あの日、菜都がキスしてたの」

「……キス…?」


キスって……


もしかしたら、とイヤな勘が働く。

キスと聞いて心当たりがあるのは……、思い出すのは、あの時……文化祭の時しかない。

………ということは、アイツって…、佐山君のこと…?


「アイツのことが好きだったんだろ?……まぁ、アイツも菜都に惚れてたしな」


まさか……

勘が、確信へと近付いていく。

まさか、あの時のことを見られてたのっ…!?


「み、み、見てたのっ…!?」

「見たっつったろ」

「ちょっ…ちょ、ちょっと待ってっ…!!ち、違うっ!!あれは違うっ!!」


ここでようやく、久世玲人の言っていたことが理解できはじめた。


アイツとは、間違いなく佐山君のことだ。