「よしっ、じゃあ早速行こう」

「え?」

「たぶん、玲人家に帰ってると思うし」

「え…ええっ!?い、今からっ!?」

ギョッと目を見開いて驚いていると、健司は何やら携帯を確認している様子。

「こういうのは、早い方がいいだろ。もしかして、これからどっか行く可能性もあるし。家にいろ、って連絡するから」

「ままま待ってっ…!!ちょっと待ってっ!!ムリっ!!もういきなり会うなんて、そんなのムリっ!!」

「……何で?」

「何でって、心の準備ってもんが…!!」

会う、って決めたのはたった今。それなりに覚悟を決める時間の余裕がほしい。

「じゃあ、いつ?いつなら会う?」

「いつって言われても……え、と…一週間後、とか…?」

「はぁ!?一週間っ!?そんなに待てるか!」

「ま、待てるかって…、健司君の都合は関係ないじゃない…!」

無茶な要求に弱々しく抗議すると、健司はやれやれといった様子で大きなため息を吐き出した。


「……あのさ、なっちゃん。今の玲人がどんなか、知ってる?」

「…?どういう意味…?」

「史上最高に機嫌が悪い。そりゃあもう、酷いったらないよ」

「そ、そんなに…?」

恐る恐る聞くと、健司は大きく頷いた。


……そんな時に私が会いに行ったら、逆効果なんじゃ…

そんな不安が頭をよぎる。


「本当に正直なところは、なっちゃんに今の玲人を鎮めてほしい。さすがに、玲人の恋愛事情のためだけにここまでしない」

「鎮める、って…、わ、私が…!?」

「もうなっちゃんしかいないんだって!助けてよ!一週間待ってる間に、玲人の機嫌に振り回される俺たちのことも考えて?」


助けて、と健司に懇願され。

……そんな大役、私につとまるはずがない。

しかし、そこは私の性格。口で勝つなんてことはできなくて…。


「待って」「待てない」の攻防を繰り返した結果、結局、健司に強引に連れられ、久世玲人のマンションまで向かうハメになってしまったのだった。