こうして、不毛な毎日が続いていたある日のこと。

いつものように何もなく1日が終わり、帰り仕度をしている放課後の教室。


「じゃあ、原田さん。また明日」

「あ、佐山君、また明日」


あれから、佐山君に何度も頑張ってって言われたけど…

結局、佐山君が起こした行動は意味不明のままだった。

どう見ても、嫉妬してるようには思えなかった。むしろ、睨まれた挙句、「関係ない」という聞かなくていい言葉まで聞いてしまって、傷付いたくらいだ。

本当に、一体何だったんだろうか…。

はあぁー…

チラリと久世玲人の席を振り返っても、その姿はすでにない。いつの間に帰ったのか。

もう、「菜都、帰るぞ」って言われる日はきっとないんだろうな…


うんざりするほどジメジメとした気持ちで帰り仕度をしていると、教室の扉に佇んでキョロキョロと教室を見回している人物に気付いた。


あ……


「……健司、君?」

私が呟くと同時くらいに、健司は私を見つけ、その顔を綻ばせた。


「なっちゃん、久しぶり」

健司の声でさえも、すごく懐かしく感じてしまう。少しだけ、久世玲人に近付いているような錯覚。


「えっと……、どうしたの…?あ、久世君ならもう…」

「ううん、玲人じゃなくて、なっちゃんに用事があって」

「……私、に?」

「うん、ちょっと話があってね。屋上までいい?」


―――屋上…

あの日のことが頭をよぎり、ぐっと言葉に詰まった。あれ以来、屋上に近付けないでいる。

久世玲人がいなくてツラいくせに、接触しそうになると恐いのだ。

矛盾している自分の感情。


「大丈夫、玲人はいないから。俺がこうしてることもあいつは知らない」


まるで私の心を読んだかのよう。

少しだけ考えてコクリと頷くと、健司は「よかった」といつもの明るい笑顔を向けてきた。