「何でっ…」と繰り返す私に、久世玲人は少し困ったように笑った。


「何でって、菜都はその方が都合いいだろ。……俺が気付いてないと思ってたか?」

「…どういう意味っ…?」

「俺と一緒にいる時、お前いつも困った顔してただろ。笑顔になることなんて、ほとんどなかった。困惑してるか、泣きそうになってるか」

「そ、そんなことっ…」

「まぁそりゃそうだよな。好きでもねえ奴と一緒に行動させられて」


そんなことない。

いや、確かに、最初の頃はそうだった。困惑しかしてなかった。

ただ、自分の気持ちに気付いてからは、その困惑はまた別の意味があり、泣きそうなのも“好き”の想いが溢れそうだから。

分かってない。

久世玲人は全然気付いてない。


一生懸命首を振っても伝わらず、久世玲人は私の横を通り過ぎて屋上の扉を開けた。


「悪かったな。……でも安心しろ、もう菜都には関わらねえから」


振り向きざまそう呟き、そして、制止する間もないまま久世玲人は「じゃあな」と屋上を去っていった。




――――関わらない…


突き放されたその言葉に、私はただ、呆然とその場に立ち尽くすだけだった。

聞きたいことも、言いたいことも、山ほどあったのに。

その一言に何も考えられなくて…。




こうして、私たちのいつわりの関係はあっけなく解消されたのだった。