「久世君っ…なんでっ…」

息も整わず、肩を上下させながら呟いた。

分からないことだらけで、何から聞いていいかも分からない。


「なんでっ…」

苦しくて、ひたすらその言葉を繰り返しながら、涙を流した。


さっきのキスは何っ…


確かめたくて、目の前の久世玲人を見上げたいけれど、恐くてできない。

また、あの目で見られることがたまらなく恐い。



しばらく俯いたままでいると、久世玲人が動く気配を感じ、静かな声が聞こえてきた。


「………帰る」

え…


瞬間、顔を上げたけどその時にはもう遅く、教室から出て行く久世玲人の背中しか見えなかった。


なんで……

何も考えられず、引き止めることもできないまま、教室に1人残された。


なんで…こんなことになってるの…

少し前までは、いつもと変わらなかったのに…


これほどまでに久世玲人が怒っている理由。その原因は、きっと私にある。

だけど、その明確な原因が分からなかった。


へなへなと全身の力が抜け、その場に崩れるように座り込んだ。




この時の私は、まだ気付いてなかった。

佐山君と一緒にいた教室が、この教室の窓から見えることを。

そして、それを、久世玲人が見ていたことを。