「……じゃあ、そろそろ戻らなきゃ。ジュースが来なくて、皆慌ててるかも」

「うん…」

「……先に、戻るから」

そう言って佐山君は机に置いていたジュースを持って、足を踏み出した。


「それじゃあ、お先に。……原田さん、ありがとう」

あのいつもの優しい笑顔で、佐山君は教室を出て行った。



その背中を見ながら、また涙が零れてしまった。

声を上げて泣きそうになるけど、私にはそんな筋合いなんてない。

涙を流せば流すほど、心に積もるのは佐山君への罪悪感。

それは、想いに応えられなかった涙じゃない―――…



私のことを真っ直ぐ見てくれていたのに、あんなにも強い想いに触れていたというのに。

真剣に向き合ってくれた佐山君に、とても失礼なことかもしれないけど。


こんな時なのに、―――こんな時だからかもしれないけど。


たった今まで、佐山君と向き合っていたというのに、私はもう別の人を想っている。



今、私の心に浮かんでいるのは久世玲人で。

今、すごく会いたいのは久世玲人で。


そんなことを思う私は、きっと、最低なのかもしれない。


流れる涙は、そんな自分に対する涙だった。