本当に、久世玲人は一体どういうつもりなのか…。

答えの出ない疑問が頭を巡るばかりだ。


それでも、なんとか平静を取り戻しながら制服に着替え終えると、外の様子が一層賑やかになっていることに気付いた。

先ほどの音楽は、文化祭のメインイベントが始まる音楽だったようで、窓からチラリと校庭を見下ろすと、仮設ステージにはものすごい人だかり。

そして、しばらくすると音楽が鳴り止み、『ミスター&ミスコンテスト開催!!』と司会の大きな声が響いてきた。


「何だ?ミスター…?」

久世玲人も隣にやって来て、不可解そうに窓からイベントの様子を見下ろしている。


「ああ、うちの高校の恒例行事だよ。イケメンとカワイイ子のランキング」

「知らねえ」

「え、だって去年の男子1位は久世君だったような…」

「知るかよ。そもそも去年の文化祭出てねえし」

そういえば、数々の諸先輩方をおさえて1位になってたけど、優勝者不在のまま表彰式があった気がする…。

「クラスでも投票用紙が配られたでしょ?男子は女子に、女子は男子に票を入れるようにって」

「なんだそれ。くだらねえことやってんだな」

「くだらないって…。でも、一番盛り上がるイベントなんだよ。気合入れてる子も多いし」

「あっそう」

ほんとに、興味がなさそうな感じだ。

でも、もしかしたら今年も久世玲人が1位になったりして…。そうしたら、ステージに上がって表彰されたりするんだろうか…。

そんな滑稽な姿を想像して思わず笑っていると、久世玲人が突然鋭い視線を向けてきた。


「おい、……今、投票って言ったよな?」

「え?うん、そうだけど…」

「菜都は誰に入れた」

「………え?」

まさか、そんなこと聞かれるとは思ってなかった。

「だ、誰って…」

佐山君に1票入れたのを、確実に覚えている。だって、投票があった頃は久世玲人への気持ちを自覚していなかったから。

ダラダラと冷や汗が流れる。


「誰だよ。他の奴に入れたんじゃねえだろうな」

「い、入れて…ないっ…」


素直に白状できるはずがない。

何でこんなに責められてる感じになっているのか分からないけど、その方が身のためだと悟った。