沈んだまま教室に入ると、「……おはよー…」とクラスメイトたちが、ためらいがちに挨拶をしてきた。

ぎこちないのは、たぶん、この目の腫れのせいと、昨日の突然の早退のせいだ。

佐山君に手を握られながら教室から出たのを、しっかりと見られているし。

「おはよう…」と小さな声で返し、若干注目されつつ自分の席に着くと、佐山君が「おはよう」と爽やかに声をかけてきた。


「あ、おはよう…。昨日は、ありがとう」

「いや、……原田さん?……何か、あったの?」

私の顔のひどさに早速気付いたようで、佐山君の声色が変わった。目を見開きながら、凝視してくる。


「だ、大丈夫だから…」

「それは……久世が原因?」

「あ、いや…」

「何があったの?停学のこと、確かめただけじゃないの?」

「う、うん、そうなんだけどね…」

問い詰めるように聞いてくる佐山君に、少し困惑してしまう。


な、何て答えよう…。

早退に協力してくれた佐山君に、ちゃんと説明しなきゃって思うけど…。

さすがに、昨日あったことを全部話すわけにいかない。


「停学の理由って、そんなに泣くほどのことだったの…?」

「そ、そういうわけじゃ…」

ていうか、停学のことなんて後半はふっ飛んでいた。あんなに強烈なことがあったせいで。


「き、気にしないで!」

「気にするよ」

「うっ…、でも、大丈夫だからっ。久世君と話してたら、ちょっと、感情的になっちゃっただけで…」

「感情的に…?」

「う、うん、ちょっと泣いちゃったけど、もう大丈夫」


ほんとに大丈夫、そう何度も繰り返すと、ようやく伝わったのか、佐山君は目を伏せ「……そう」と一言呟き、それ以上聞いてくることはなかった。