鞄を取りに急いで教室に戻ると、もうすでに掃除は終わっている様子で、クラスメイトは数人残っている程度。ほとんどの人がもう帰宅したか、部活へ行ったと思われる。

私も早くしなきゃ!久世玲人を待たすわけにいかない!


そう思って足を進めようとしたけれど、自分の席を確認した瞬間、思わず踏みとどまってしまった。


……佐山君が、まだいる。


行きづらい…。ものすごく行きづらい……。

あぁ…結局心は休まらない…。


でも引き返すわけにいかないしな…。しょうがないから、サッと鞄だけ取って素早く逃げようか…。


……いや、でもそれは不自然だよね…。失礼だし、いつも通り、フツーにしなきゃ…。

フツーに、フツーに…。


そう心の中で唱えながら、ぎこちなく足を動かし、自分の席まで向かった。


「あ、原田さん。おかえり」

ソロソロと近付く足音に、佐山君は振り返る。早速気付かれてしまった。


「さ、佐山君っ!まだ、残ってたんだねっ…!」

なるべく平静を装うつもりが、意識しすぎて声が上擦ってしまう。


「うん。原田さんの鞄がまだあったから、帰ってくると思って待ってたんだ」

「そ、そっか…」

ニコニコと邪気のない爽やかな笑顔を向けられ、私は何と返せばいいのか相変わらず分からない。

気の利いたことが言えず、困ったように俯いてしまうと、佐山君がクスリと笑った気配がした。