佐山君が出て行って数分後、フラフラとおぼつかない足どりで私も視聴覚室から出た。


佐山君に……佐山君に……こ、告白された…。

夢じゃないよね…。

てっきり、昨日の保健室でのことを注意されるのかと思ってたのに、そのことには一切触れてこなかった。


自分に起こった出来事が信じられなくて、嬉しさよりも、戸惑いが心を占めている。


まさか佐山君が私のことを…。うそでしょ…。


戸惑いがかなり大きいけど、先ほどの佐山君の告白を思い返すと、カーッと顔が熱くなる。


初めてだ…。男子に告白されたなんて…。今までの人生で、あり得なかったこと。

それが憧れていた佐山君とくれば、……普通だったら嬉しいはずなのに。



それなのに……。




ああもう…!!

ワーッと頭を掻きむしりたくなる。何が何だか分からなくて、自分がどうすればいいのかも分からない。

自分のことなのに、全然分からない。


少しでも頭を冷静にする術はないかと、歩み進めていた足を止め、校舎の壁にピタリと体をくっつけた。

ひんやりとする壁が体と顔の熱を吸い取ってくれているかのよう。ベタリと張り付きながら、私はボーッとする頭で考えた。




もし……久世玲人と出会う前だったら、私はどうしてた?


………おそらく…。


同じように驚愕するだろうけど、きっと、私は大喜びで、舞い上がって、佐山君の告白を受け入れるに違いない。いくら平穏な日々が好きだといっても、佐山君と想い合ってるということまで台無しにはしないはず。



今の私にそれができないのは、久世玲人の存在があるからで…。


本当の恋人じゃない、いつわりの関係だけど…。


だけど……。



間違いなく、久世玲人は私の生活の中に入り込んできていて――…。