その何かは、充分な量の水分を含んでいるのだろう黒々としたコンクリートの外壁を背に、どこか果てを見つめていた。
その横顔は誰かに縋る訳でもなく、人を、自分すら信用していないように見て取れるものだった。
私は職業柄、このような人間は幾人も見てきている。
弱い人間が強がりをし、見えないベールで自分自身を覆って苦痛や悲壮を隠す。
そして、本来の自分を忘れたまま破滅し、朽ちていくのだ。
しかし、目の前に立つ人物はそれらの人間とはどこか違い、不本意にしろ孤独に淋しげな雰囲気を身体全体から醸し出している。
私が目に留めた何かは、傘も無く濡れた灰色のトレンチコートを羽織っただけの銀髪の青年だった。
青年は近付く私に気付いていないのか、ただ一点を見つめている。
雨に打たれて顔に張り付くようになった長めの銀糸から覗く虚ろな目が、私の存在を証明するかのようにその鏡のような銀色の瞳に映していた。
私はここから目と鼻の先にあるイーストドッグ警察署で警部を勤めている公務員だ。
警察官といえば誰もが思い浮かべるものは、警察官としての義務とか正義感とか諸々。
しかし自慢できることではないが、そんなものが私にある訳ではない。
だが、何故だか自分でも理由という理由を見出だすことも出来ないが、目の前の青年を見て見ぬ振りをすることは出来なくて―――。
その横顔は誰かに縋る訳でもなく、人を、自分すら信用していないように見て取れるものだった。
私は職業柄、このような人間は幾人も見てきている。
弱い人間が強がりをし、見えないベールで自分自身を覆って苦痛や悲壮を隠す。
そして、本来の自分を忘れたまま破滅し、朽ちていくのだ。
しかし、目の前に立つ人物はそれらの人間とはどこか違い、不本意にしろ孤独に淋しげな雰囲気を身体全体から醸し出している。
私が目に留めた何かは、傘も無く濡れた灰色のトレンチコートを羽織っただけの銀髪の青年だった。
青年は近付く私に気付いていないのか、ただ一点を見つめている。
雨に打たれて顔に張り付くようになった長めの銀糸から覗く虚ろな目が、私の存在を証明するかのようにその鏡のような銀色の瞳に映していた。
私はここから目と鼻の先にあるイーストドッグ警察署で警部を勤めている公務員だ。
警察官といえば誰もが思い浮かべるものは、警察官としての義務とか正義感とか諸々。
しかし自慢できることではないが、そんなものが私にある訳ではない。
だが、何故だか自分でも理由という理由を見出だすことも出来ないが、目の前の青年を見て見ぬ振りをすることは出来なくて―――。
