あまりにも予想外な出来事に茫然自失状態だった私は、僅かだが時間を要して漸う我に返ることが出来た。
歪めた口許から落ちそうになっていた煙草を人差指と中指の間に挟むと、その同じ手で左側から首筋に当てられているナイフを横へと押し流す。
「おい。兎に角そいつを戻して俺の弁解、話を聞く気は無いか?」
なるべく相手を刺激しないようにと配慮し、言葉と口調を私の出来る範囲で選び、彼の左手に握られているナイフを置くように促し、私はこの危機的状況から逃れようと努める。
だが、
「話?
…何のことだ」
相手は威嚇する猫―――
いや、毛を逆立て牙を剥く獅子の如く殺気を纏っている。
ただ一言でも口を利き、私の話に乗ってきてくれたことが、この状況下でのささやかな安堵の破片だ。
私は尚、慎重に言葉を続ける。
「いや。俺の弁解というか…
お前さんがここで寝ていた理由を、だな…」
ひと時の空白の時間が訪れる。
冷たい汗が背骨に沿って背中を流れていく不快な感覚。
締め付けるような空気が、私の周りで嘲笑っている。
歪めた口許から落ちそうになっていた煙草を人差指と中指の間に挟むと、その同じ手で左側から首筋に当てられているナイフを横へと押し流す。
「おい。兎に角そいつを戻して俺の弁解、話を聞く気は無いか?」
なるべく相手を刺激しないようにと配慮し、言葉と口調を私の出来る範囲で選び、彼の左手に握られているナイフを置くように促し、私はこの危機的状況から逃れようと努める。
だが、
「話?
…何のことだ」
相手は威嚇する猫―――
いや、毛を逆立て牙を剥く獅子の如く殺気を纏っている。
ただ一言でも口を利き、私の話に乗ってきてくれたことが、この状況下でのささやかな安堵の破片だ。
私は尚、慎重に言葉を続ける。
「いや。俺の弁解というか…
お前さんがここで寝ていた理由を、だな…」
ひと時の空白の時間が訪れる。
冷たい汗が背骨に沿って背中を流れていく不快な感覚。
締め付けるような空気が、私の周りで嘲笑っている。
