ああ 赤い血潮が流れていく。
身体の至るところを伝い、自ら作った赤い溜まりの中へ。
何度 死念を込めたのか、既に分からなくなっていた。
それでも私は、まだ生きている。
これは夢なのか、
これは幻なのか、
それとも
理想だったものなのか。

ああ 鼻腔を擽る刺激的な甘い香りが漂っている。
白ワインにも似た甘い香りだ。
彼が好きだった白ワイン。
口腔を潤し、
喉を愛撫するように流れ、
そして、
全身をほんのり温めてくれた白ワイン。

ただ、
濃厚な香りを放つ液体は純白透明のそれではなく、
私の身体を温めることもなく、
ただ赤く、
鈍く赤く滲んでいる。

時間がゆったりと流れていく。
今まで胸の内に仕舞っていたものと混ざりあって、ゆったりと私の身体から流れていく。

そう。
それは、私が彼を想うように、
彼が私を想っていたように。
そして、
この15年という年月を懐かしむように―――。