秘策といっても、単なるノーブレス泳法。
息継ぎをしないで、ただただ泳ぐ。
ノーブレ25mや潜水25mは、練習メニューで毎日やるから、いけないことも無い。
気もするが、今は1475mも泳いだ後だからなぁ。
息継ぎをしていない為、6コースとの差が分からないが、その分、自分の泳ぎに集中するだけ。
……苦しい。やっぱり早すぎたか。
ラストの5mラインすら見えていないのに、もう限界。
でも折角ここまで来たんだ、と我慢に我慢を重ねてノーブレ続行。
あれ? 去年死んだおじいちゃん。どうしたの?
え? その川を渡ればまた一緒に暮らせるの?
ん? 立て札がある。何々、これは『三途の川』か……。
ダメじゃん! 酸欠酸欠!
遠のいた意識が戻ってきた、と同時に見えたのがラスト5mのライン。
5m……近いようで今の俺には1500mよりも遠い距離。
けどあと少し……。
この右手を掻いたら……まだか、じゃあこの左手……まだか。
今度こそ……イタッ!タッチ板で指突いた!
顔を上げてとにかく呼吸呼吸、酸素酸素。
いつもならゴールして直ぐに電光掲示板を見るが、そんな余裕なんてあるわけが無い。
あれだけ意識していた6コースを確認する気も無い。
「君、大丈夫?」
役員さんが声を掛けてくれるが、それにも
「ヴァアヴァヴァア」
怪獣か! とトシが突っ込んでくるくらいの意味不明な発声で答える。
しばらくして、7コースがゴールした。
やはり最下位は免れた、とやっとここで電光掲示板に目をやる。
何位だったんだ?
あれ? まだ6人しか表示されてない?
とにかく、8コースは……上から、5コース、4コース、3コース、8コー……お! 俺4位か!
続いて6コース、7コース。
「君、次があるから早く上がりなさい」
人が喜びに浸っているって言うのに、役員が事務的に言ってきた。
っていうか1コースと2コースは?
目をやると誰も泳いでる気配がない。
「ああ、1コースと2コースは途中で棄権したよ」
なんだ、そんなオチか。
