レースが始まると、各校の応援団が一斉に声を張り上げる。
「スェイ! スェイ!」
と叫んでいる様に聞こえるが、決してボクシングじゃない。
正確にはスイム=泳げ、と言っているんだが、何故かスェイと聞こえてしまう、ってか言ってしまう。
体育会系だから英語の発音が悪いって事ではない。
寺尾のコースは6コース。
申告タイムではこの組の4番目、ということになるんだが、スタートダッシュが効いたのか、現在2位。
「由美ちゃん好調だね」
「ラップもいい感じだよ」
「さすが寺尾だな、ベスト出るかもね」
大畠先輩達マネージャーや先生が口々に言っている。
『バシーン!』
「ほら! 浅野君もっと声出して!」
あーちゃん! 一々叩かなくてもわかってるって!
50mのターンに差し掛かる。
寺尾はクイックターンが結構うまい。
ターン自体というより、ターンに入るタイミングがいつもぴったり合っている。
「あ……」
と思わず俺が声を出すと、高橋が不思議そうに眺めてくる。
「どう、したの?」
「ん、いやタイミング狂ったなって思っただけだ」
いつも短水路(25m)で練習してるから、長水路(50m)では、タイミング合わなかったんだろう。
「よく、わかる、ね」
「ん、一応これでもフリー選手やってるから」
「でも、普通は他の人のとかわからないよ?」
ええい! 村山の分際で微妙なところを攻めてくるんじゃない!
「そりゃあね、浅野君はいつも由美ちゃんばっかり見てるからね」
ええい! 賑やかしでしか出番のない鮎川の分際で!
「そうそう、私達にはアドバイスすらしてくれないのにね」
この! 同じく久々登場の西岡が!
「浅野! ばか言ってないで声だせ!」
先生? 喋ってたの俺だけじゃないんですけど?
