「それならいいけど。でも寺尾はいいよなー。フリーの100と200だもんなー。期待されてるんだもんなー」
とちょっと拗ねる様に、関係の無い寺尾をいじる。
「そんな事言わないでよ〜。大丈夫、浅野君なら平気だって」
「根拠は?」
「え? えと、ほら、私も応援するし。ね?」
「応援だけ?」
「え? 泳ぐの手伝ったりはできないし……」
ふむ、ここはちょっとチャンスかな。
「ご褒美が欲しいかな〜」
「ご褒美? 何か欲しい物、あるの?」
当然、何のことか分からない寺尾の頭頂部には、Mr.3張りのクエスチョンマークが出来上がっている。
「物じゃないけど。1500をちゃんと泳いだら、今度の日曜日にでも、遊びに行こ」
デート、とはっきり誘えないのはチキンだとか言わない。
「いつも一緒に遊んでるよ?」
思わず崩れ落ちた……。
「いや、そうじゃなくてさ、どこかへ遊びに行こってこう、ね?」
まったく鈍いというか、鈍感というか。あ、同意語だ。
「え? もしかしてそれって……」
寺尾の顔がちょっと引き気味?
「おごって欲しいの?」
……。
「いや、女の子におごってもらう気はない。そうじゃなくて」
そうだよな。寺尾は、言葉やニュアンスから察する、とか苦手っぽいし。
「一応、二人でどこかへ遊びに行こう、という事なんだが」
それでも『デート』という単語が使えないのは、ヘタレとかじゃないはず。
「二人で? よく分かんないけど、それで浅野君が頑張れるんなら、うん、いいよ」
それでも分からないってどういう事よ?
「よし。じゃあ頑張ってみるわ。寺尾もそろそろ行く時間だろ? 頑張ってこいよ」
場内アナウンスが女子フリー選手の集合を告げている。
「うん! じゃあ行ってくるから応援しててね」
さて、と。デート獲得の為にちょい頑張ろう。
