6月には県予選があるというのに、こう連日の雨じゃ気分が滅入る。
「水泳部は雨でも関係ないだろ」
予言どおり文化系で幽霊部員をやっている木田と、朝の電車で話をしている。
「けどな、小雨ならまだしも、強く降られると背中に当る雨粒が痛いんだって」
雨中の水泳を知らない人には、にわかには信じられないんだろうけど。
「そっか。よかった、俺水泳部じゃなくて」
「ってか、結局お前は何部に入ったんだっけ?」
聞いたことはあるんだろうが、何せ2ヶ月前の野郎の話だ。覚えている訳が無い。
「お前はそういう奴だよな。俺が入ったのは……あれ? どこだっけ?」
本人が忘れてやがる。まったく持って不届きな奴だ。
「あれ? 木田君に浅野君?」
不意に声を掛けられ、見るとそこには妹北田がいる。
「あ、美樹ちゃん、おはよう」
何? 二人は知り合いなのか?
「おはよ。二人って知り合いなの?」
それは丸々こっちの台詞なんだが。
木田にアイコンタクトで説明を求めると
「ああ、俺の隣の席」
と至ってつまらない回答をもらった。
「俺たちは中学からの知り合いだよ、な?」
「いや、俺は入学早々女子のメアドをGETして喜んでるような奴は知らない」
木田が聞いたのは妹北田のメアドだったのか。
「ちょっと。お兄ちゃんには内緒だよ、それ」
慌てて隠そうとするとは?
「もしかして北田兄妹は禁断の……」
「ちっがーう! 私達はそんな変態兄妹じゃない!」
電車内で叫ぶなよ、周りに迷惑じゃないか。
「お兄ちゃん、ああ見えても結構厳しいんだから」
メアドぐらいで?
「さすがに入学式の日には、ねえ」
たしかにあまり良い印象ではないな。
言い触らして楽しいネタでもないから黙っておくか。
「というか先輩は?」
登下校はいつも一緒にいる印象なんだが。
「今日は早朝から部のミーティングだって言ってたけど?」
ミーティング?
「あれ? そういえば浅野君も一年のキャプテンだから行かなきゃいけないんじゃない?」
「ああーー!!」
すっかり忘れてた。