予選の仇を決勝で取る、と言えば、対決を盛り上げるのが好きな実況席の大好物だが。

 生憎、由美にはそんな気もなければ、そもそも見えていないだろう。

 それでも、互いが争っているのが分かるかの様に、由美と1コースは同体のままラスト5mラインまできた。

「負けるなー!」

「あとちょっとだよ!」

 声援もクライマックス状態。

 あと1m……ゴールした!

『6着 8コース 2:17:54』

『7着 1コース 2:17:62』

 順位が電光掲示板に表示された瞬間、鳥肌が立った。

 いくら何でも、初の決勝進出で、6位とはいえ入賞するなんて。

「やったよー!」

「すごい! すごい!」

「たいしたもんだ」

「6位だよ! 6位!」

 皆が大喜びしているが、俺はただただ驚くだけだ。

「浅野君、良かったね!」

 村山も興奮している様で、小躍りしながら側にきた。

「ああ、まあ、すごいな」

「嬉しくないの?」

「嬉しいより、驚きの方が上をいってるだけだ」

「そっか。そうだよね。すごいもんね」

 プールでは、由美が自力で上がれず、役員の手を借りてプールサイドへ上がっている。

 体力は限界突破寸前だったんだろう。

「浅野君、迎えに行こう」

 興奮冷めやらぬあーちゃんが誘ってきたので、村山や妹北田ら一年生を引き連れ、迎えに出た。


 スタンド下の通路で、ざわめきながら歩く一年生軍団。

 周りは、こいつらうるせー、静かにしやがれ、的な目で見てくるが、興奮した15の青春は止まらない。

「あ! 由美ー!!」

 先頭を行くあーちゃんが、皆より一足早く由美の姿を見つけ、ドスドスっと近寄る。

「みんな〜。ヘヘ〜」

 由美も絞まりはないが満面の笑顔で喜んでいる。

「あんたって子はホントに〜」

 とあーちゃんのセリフを皮切りに、一年生軍団が由美に駆け寄り、場違いな盛り上がり大会が始まった。

 陣地に戻ると、今度は先生や先輩からお褒めの言葉をもらう由美。

 部長とか頭撫でてるし。俺の専売特許なのに。