スタンドの通路ですれ違わないか見ながら歩いたが、姿は無い。
さらに歩いていくが、なかなか姿が見当たらないが。
ホントに倒れてないだろうな?
結局、メインスタンドを通り過ぎた。
バックスタンドに回り、通路を行く。
バックスタンドには特に施設が無いから、大会関係者とレースの往き還りの選手しかいない。
姿が見えないな、と思いながら歩いていると、ふと柱の陰に人影がある。
「由美か?」
声を掛け近付くと、由美は振り返った。
その表情は、悔しさと悲しさ、憤り等、負の感情が入り乱れている。
「あ……あさ……あさのく〜ん」
かろうじて聞き取れるような喋り方、泣き声になっている。
「どうした?」
何があったかは分からないが、とにかく近寄り、肩に手をやる。
「う……だって……だって……」
そう言いながら、俯いて、涙を堪えきれないのか、タオルを顔に当てた。
やれやれ。何があったか分からないが、落ち着くまで、そっとしておくしかないかな。
10分くらい経ったか、何とか落ち着いた由美を、ベンチのあるところまで連れていく。
「どうした? 負けたのが悔しいのか?」
水泳に関しては負けず嫌いになる、とは言え、県予選や昨日は、泣く程悔しがっていなかったが。
「違うの。あのね……」
そこまで言うと、またぶり返したのか、泣きそうになる。
「ん、どうした?」
肩を抱き寄せ、頭に手をおく。子供をあやすみたいだが、こうしたくなるのは、男の性か。
「あのね、順位やタイムは、どっちでもよかったの。ただ、あの4コースに負けたのが……」
そこまで一気に言うと、またグスン、と泣き声になる。
しかし余計に意味が分からない。
「4コースと何かあったのか? たしか桜坂女子の選手だよな」
「だって。あの子、さくら先輩をバカにしたから。さくら先輩が頑張って入賞したのに、自分なら、もっと上にいったって……」
成る程ね、そういう事か。
