「じゃあ、カレーうどんと味噌煮込みうどん、どっちがいい?」
……ここだけ聞けばごく普通の質問だが。
「できればカレーうどん、かな」
カレーパンは好きだし、カレーマンも好きだ。
パンズとカレーの相性は良いから、味噌よりはいいはず。
「じゃあカレーうどんサンド作ってくるね」
ネーミングを聞くと、やはり後悔する。
なんでうどんをサンドイッチに挟むんだ?
「ならばもう一つの条件を出そう」
「え〜なんで二つもなの?」
そりゃ意地悪したいからに決まってる。
「まあ聞きなさい。今後俺の事を名前で呼ぶ事」
やっぱり恋人は名前で呼び合うのが基本だろ。
「やだ〜恥ずかしいよ〜」
寺尾は足をブンブン振りながら、駄々っ子みたいに嫌がる。
「じゃあ『お兄ちゃん』とでも呼ぶか?」
と言った途端、寺尾に、何この二次元人的な目で見られる。
「例えば、だよ。それは俺も困る」
と言っておいたが、困りはしないのが本音なのは秘密だ。
「えっと、じゃあ……ひ……ろ……くん」
抱きしめてもいいですか? 可愛い過ぎるんだが。
「じゃあ浅野君も、私を名前で呼んでくれるの?」
いまさっき名前で呼べと言ったのに。
まあ今の今ではそんなもんか。
「俺は平気で由美と呼べるぞ」
別に呼び方に恥ずかしさはない。
「いや〜私が恥ずかしい」
そんなもんなんかねえ。
しばらくそんなバカップルぽい話を続け、気が付けば時計は9時を指そうとしている。
「そろそろ帰らないと、親も心配するよな」
ここからなら寺尾家までは30分弱だろう。
「そうだね」
と言いながら、俺に寄り掛かってくる。
「なんか、まだこうしていたいなあ」
付き合い初めはそんなもんなんだろう。
「だって、三年間、ずっと想ってたんだもん」
かける言葉が見つからない。
寺尾の肩をそっと抱き寄せる。
「これから、三年間を取り戻すくらい、楽しい想い出、作ろうな」
そう言って抱きしめた。