噴水の隣にある時計が7時30分を示す。
と同時に電気のスイッチが入った。
寺尾は俯き加減だから気付いていないのだろう。
「寺尾。前見てみな」
俺の言葉で顔を上げた。
「うわきれいなハート!」
噴水の周りに、青を基調にして、緑やピンクのイルミネーションがハートの型に光っている。
夏休み時期限定のイルミネーション。
本来ならデートの後にここへ連れて来て見せようと思っていたんだが、まあそこはそれ。
経過はともかく、とりあえずは計画通りに事は進んだ。
「な、綺麗だろ」
うんうん、と頷いているが、どうも俺の言葉は耳に入っていないんじゃないか? くらいに身を乗り出すように見つめている。
ちょっと感動しすぎじゃありません?
しばらく見続けていた寺尾が、背もたれにもたれ掛かった。
そろそろいいかな?
「なあ、寺尾さあ」
呼ばれてこっちを見る寺尾の顔は……綺麗なイルミネーションに感動したままの子供のような笑顔。
「俺さ、そりゃ中学の時のこととか、覚えて無かったのは悪いと思うけど」
あ〜この後言わなきゃいけないんだが、やっぱ緊張する。
「あのさ、ほら、クラスの自己紹介の時のこと覚えてるか?」
寺尾はちょっと話がそれたのが不服か、首をかしげる。
「あの時にさ、寺尾が俺のこと見てたの気付いて、寺尾を見たんだよな」
あ! とばかりにその時の状況を思い出したんだろう、ちょっと表情がはにかむ。
「その時に寺尾を見て……うん、一言で言うと」
やべ、ここまできて色々考えに考えたセリフが全部吹っ飛んでる。
誰か俺の脳内HDを修復してくれ。
「俺、あの時から寺尾に一目惚れなんだわ」
くっ! せっかくここまで盛り上げといて、こんな当たり前の事しか言えないなんて。
ボケろと言われれば際限なくボケられるのに。
「うん!」
ん? 返ってくる言葉がそれ? あ、続きを求めてるんだな。