「さっきの、その、入部の時からね。ずっと浅野君の事、気にしてたの」

 ……ん? いや、ちょっと?

「練習中も、浅野君は自分も初心者なのに、頑張れって励ましてくれて」

 いや、ちょっと。寺尾さん?

「ちーちゃんやれいちゃんが辞めちゃっても、浅野君がいたから頑張れたし」

「私に相談してきた時も、浅野君の話しばかりしてたのよ」

 ん〜と。この流れは、もしかしなくても?

「だから、その、ね?」

 寺尾はそこで言葉を区切った。

 それ以上は言わなくても、場の空気が読める俺になら理解できる。

 たまに外したりするけど。

 しかし、以前あーちゃんから聞いていた寺尾の話と違うよな?

 まだ、恋愛云々といった事に感心が薄かったはず。

 それこそ初恋すらまだなんじゃないか、と思っていたんだが。

「さて、と。その話を聞いた浅野君が、この後どうするのかな?」

 先輩は野次馬的な興味本位ではなく、後輩を思いやる優しい先輩的な口調で問い掛けてきた。

 どうするって言われても、やる事は決まってるんだが。

 今ここで、この衆人環視の興味本位の視線の中でか?

 先輩の態度からすれば、どうやら今ここで何らかの結論を出さないと許してもらえそうにない。

 が、しかし、俺にも猫の額程の羞恥心はある。

「あの、先輩……」

「ダメ。はっきりさせない子は嫌いよ」

 ……何故聞かなくても分かる?

「女の子がここまで言ったんだから、男の子が逃げちゃダメよ」

 ああ、どうやら先輩は俺が逃げるつもりだと思ってるらしい。

「逃げるなんてとんでもない。ただ、これは2人っきりの場所で話したいな、と」

 俺の言いたい意味を理解してくれたか、先輩は納得した表情を浮かべてくれた。

「それなら……今夜かな?」

「いやいや、早過ぎるというか。ってか、そんなに急かすのは何故です?」

 早いに越したことはないのだろうが、別に次の章……明日でも問題ないだろうに。

「寺尾さんね、告白されてるらしいわよ」