しかし先輩はそれでは納得していないのか、こちらを見つめ続けている。
「あの……浅野君。私も聞きたい、かな?」
え? 寺尾さん? 何をいきなり?
「女の子にそこまで言われて、言葉を濁すような子じゃなかったわよね?」
先輩の中の俺はどんな子なんだ?
あ、新入生でいきなり部長に盾突く不届き者か。
「あ〜もう。分かりました。言います。可愛いです。食べたいくらいに!」
性的な意味で食べたいとかじゃないけど。今は。
本人を隣にしてこう言ったのは、いや、本気と書いてマジで言ったのは初めてだな。
こんなに恥ずかしくて緊張して、何よりその後が気まずいものとは。
言わせた先輩は、とりあえず納得しているみたいで、ブルック並の鼻唄が聞こえてきそうに御機嫌だし。
聞きたい、と言った寺尾は、それでもやっぱり恥ずかしくて下を向いたまま。
何となく周囲からは興味本位に聞き耳を立てる気配を感じるし。
「よく言えました。じゃあご褒美に、寺尾さんの気持ちも聞いてあげましょうか?」
ちょっと待って! 何でいきなりこんな所で?
「と言っても、本人がこれじゃあ、話は無理みたいね」
……あれ? 俺には追求したのに、寺尾には優しくないか?
「仕方ないわね。昔の話になるけど」
先輩の言葉に、寺尾が顔を上げ、何かを訴える。
「やっぱり自分で言いたい?」
先輩の言葉に軽く頷く寺尾。
えと、この流れはもしかして?
「あの、ちょっといいっすか?」
ヤバい展開になる前に話を区切らせてもらう。
「ダメ。いい子だから黙って聞いてなさい」
あれ? 先輩のキャラ変わった? いや、S属性が出てきただけか?
「あの、あのね……」
寺尾はこちらのやり取りが耳に入らないのか、振り絞る様に呟き始めた。