「先輩はこのお店、よく来るんですか?」
完全に立ち直ったか、寺尾が普段通りの喋り方に戻っている。
「そうね。ここは私のお気に入りのお店よ」
お気に入りの喫茶店とか、さすがに大人な感じだな。
「高校入ってすぐかな、当時の三年の先輩に連れてきてもらったのが最初ね。それ以来よ」
「こういう感じ、私も好きです」
寺尾も気に入っているらしく、周囲を見渡している。
「私もお気に入りのお店とか、憧れるな〜」
「寺尾のお気に入りは、マックとかミスドじゃないのか?」
「そーゆー浅野君だって、お気に入りはマルKやミニップでしょ」
そんな不毛なやり取りを先輩は微笑ましいとばかりに見つめている。
一通り話が終わった所で、藤岡先輩に尋ねてみた。
「ところで、さっきの話しですけど」
いざこざの張本人である大塚は帰った。ならば、聞いてもいいんだろう。
「さっきの、というと、どの話しかな?」
いえ、まあこの数十分で、いろいろ話しはしましたが。
「その、去年、俺の話を大塚に聞いていたとか」
「ああ、その話は、後でね。それより、浅野君、一年生の頃の事は覚えているかな?」
質問に質問返しですか。
今も一年生です、と答えたいとこだが、そう答えてはいけないっぽい。
「そんなに覚えてないですけど、そこそこは」
大きな出来事ならまだしも、日常的な出来事はあまり覚えていないのは普通だろう。
「じゃあ入部したての頃の事は?」
はて? 入部当初?
「たしか……入部の時は50人くらいいて、プールサイドで大声で、自己紹介させられたんですよね」
もろ体育会系な行事だが、これもある意味仕方ない。
いくら経験のある部員でも、水難事故に会う可能性はある。
小学生のお遊び気分を払拭するための洗礼の一つだ。
「でも寺尾さんはそれがなかなかできなくて、ね」
へえ。そうだったんだ。と寺尾を見ると、恥ずかしそうに照れ笑いをしている。
