帰りのバスの中、いつもの様に俺と寺尾、あーちゃんは近くに固まる。
「今日は一年生が調子良かったわよね」
あーちゃんがマネージャーらしく今日を振り返る。
「でも浅野君、怒られてたよ?」
寺尾さん? 余計な所は忘れませんか?
「それでも、リレーでは自己ベスト出したわよね」
そうそう、そっちだけを話してくれればノークレームノーリターンだ。
「何か理由でもあるのかな?」
あーちゃんが家政婦な探偵になりそうな目つきで尋ねてくる。
「何か? って何だ?」
実際自分でも理由は分からないから、答えに困る。
「ふーん。とぼけるって事は、また由美に何かおねだりしたのかな?」
おいおい、あーちゃん探偵の推理力は眠りのおっちゃん並か?
「浅野君、何か欲しいの?」
おねだりと聞いて、ホントのご褒美を連想する寺尾も寺尾だ。
「たまたま調子良かっただけだ」
と当たり前の返事に対して、あーちゃんは疑いの眼差し、寺尾は寂しそうな表情を浮かべる。
「私の応援は足りなかった?」
あ、そういえば、そんな話をしたな。
「何を言う! 寺尾の応援あっての自己ベストじゃないか!」
羞恥心もなく前言を撤回するさ。
「ホントに?」
寺尾は俺の言葉をそんなに信用しないのか?
いつも適当な事ばかり言ってはいるが。
「何を疑う。男は可愛い女の子に応援されれば、普段の3倍のスピードが出るんだぞ」
「そんな事ばっかり言ってるから、由美だって信用しないのよ。ね?」
とあーちゃんにふられた寺尾が、何故か顔を紅めている。
「か、可愛い?」
……あ、自爆スイッチ押してたよ。
そういえば、何か周りからも「あいつ何セカチューしてんだ?」的な眼差しをプレゼントされてる気がする。
しかもこれを前言撤回するのは、さすがにヤバい気がするしな。
一瞬だが、周囲が無言になった。
もしかして、周りまで俺の次のボケを期待しているのか?
「さすがにここで変なボケとかしないわよね?」
あーちゃんは俺の心境を読むのが上手いな。