1コースのペースはどんどん落ちていく。

 兄北田のペース配分は安定しているから、一般に言う追い上げ型か。

「こら捕まえたやろ」

 井上先輩の言葉通り、75m付近では横一線に見える。

 本人達も分かっているんだろう、1コースは何とかペースを上げよう、と手を早く回しはじめた。

 しかし傍から見ると、泳ぎが雑になっているだけ。

 85m辺りで兄北田が少し前に出たように見える。

 隣をチラッと見ると、あ〜やられた、という顔をしているから、贔屓目だけではなさそうだ。

「やったね!」

 村山も自分の事の様に喜んでいる。

「え? 同じチームなんだから、当たり前でしょ?」

「そう言えばそうか。あまり活躍してないから、記憶から消去していた」

「いくら浅野君がバカだからって、それは酷いよ!」

 ……ん? 何か地味に反撃されていないか?

「お前らホンマに仲ええな」

 井上先輩の仲良し度チェックスカウターは故障中らしい。

「そんなスカウターとか無いよ。ていうか、僕と仲が良いのが嫌なの?」

「村山君、リレーの最中にそんな会話をするのは、兄北田に対して失礼ではないか」

「いつも自分からつまんないネタ振りするくせに」

 ……なんだか今の村山は反抗期らしい。

 いちいち小ばかにしてきやがる。

 ラスト5mラインまでくると、1コースからは身体半分前に出ている。

 余裕の逆転勝ちだな。

 残念ながらその前、3位の7コースには追いつけなかったが、4位ならば十分だろう。

「ふう。疲れた」

 プールサイドに上がってきた兄北田は、一息つきながらいつもの爽やか過ぎて逆に怪しい営業スマイルをみせる。

「さすが北田やな。あそこからよう追い上げたもんや」

「まあな。井上や村山かま踏ん張ってくれたからな」

 えっと、俺の頑張りは無視ですか?

 自己ベストまで出したのに。

「浅野は頑張って当たり前だろ。唯一赤点取ってきたんだから」

 そんな昔話を蒸し返すな!