「それより、村山はっと」
プールを見ると……あらあら?
4コースと5コースは熾烈なトップ争いをしている。
そこに7コースが追い上げるかのように3位から猛追。
井上先輩の時までは4位争いをしていた1コースと6コースは、今は村山を突き放すように4位と5位。
まだ差はそれほど開いていないものの、明らかに遅れ始める2コースの村山。
そしてその村山を捕縛すべく猛追する3コース。
「分かりやすい説明やな」
「それはいいが、村山も頑張らないとな」
先輩二人はそう言うが、レース自体には、そこまでこだわっていない。
「村山はまだ成長段階だからな。これからだよ」
やっぱり俺と村山で、扱いが違うよな。
男の先輩に優しくされるのも、それはそれで違った意味で恐いが。
25m付近、村山の健闘むなしく、1コースと6コースは身体一つ半ぐらいの差をつけ、突き放していく。
追い上げてくる3コースは、天の恵みか、村山とそれほどスピードに差がないのか、差はあまり縮まらない。
「村山、今日は自己ベスト出したんだったよな?」
兄北田が聞いてきたが、と言うは、兄北田も皆のタイムを良く覚えていないって事か。
「俺はその時レース出てたからわかんないんだよ」
「そうでしたね。フリーを二人で独占して、俺を追い出してましたもんね」
「浅野が拗ねて言ってもキモイだけやんなあ」
井上先輩までそういう事言いますか。
「本人の自己申告ではベストだったらしいですよ」
「ならそこそこいけるか? 今日は」
アンカーの兄北田からすれば、やはり最下位で引き継ぐのは勘弁して欲しいんだろう。
「いや、去年は結構多かったからな」
「そうなんですか?」
「そりゃ去年はフリーは俺一人だったし。まあ普通の事だろ」
そう言えばそうか。朝倉先輩も近藤先輩もフリーはそこそこ。
専門外では一番タイムの良い井上先輩が、こうやってリレーに出てるんだからな。
