レースの方は50mターンに到達。
井上先輩は……7コースに抜かれて現在4位か。
6コースはペースがこれ以上上がらないのか、井上先輩とほぼ同時にターン。
しかしここに1コースも追い上げてきていて、4位争いに加わってきた。
一人遅れている3コースは、これはとりあえず大丈夫だろう。
「なかなか周りは速いな」
「そうだね。まだ抜かれるかな?」
村山は心配そうに言うが、自分の事も心配しておいてくれ。
アンカーへの引き継ぎ時には最下位、とかはさすがに止めて欲しい。
75mライン付近、井上先輩と6コースはまだ横一線。
追い上げてきた1コースも疲れたのか、身体半分くらいまできてからは差が縮まらない。
「1と6はどんな選手か知ってます?」
村山が飛び込み台に立つ後ろで、兄北田に聞いてみる。
「お前は……鷺山高校と大桑高校だろ。それくらい見ておけ」
そう言われれてもなあ。野郎には興味無いし。
「すみません。で、どんな選手かは?」
「そんなの知るわけ無いだろ。野郎に興味は無い!」
……ダメだ、俺の周りには野郎に興味の無い人間しか集まらないらしい。
残り約10m付近、井上先輩は抜かれることも無く、かといって差を開けるでもなく、4位争いのまま戻ってきた。
「村山! ミスだけはするなよ!」
リレーで一番恐いのは引継ぎミス。
4人全員がベストの状態で泳ごうとも、引継ぎをミスすればそれで終わり。
村山は練習は十分積んでいるにしても、実戦ではまだ県予選に次いで2回目。
フライングさえしなければ、それでいい。
井上先輩がタッチ。と同時に動き出す村山。
それでは遅いんだが、フライングよりマシだ。
「ああ、ここまで抜かれたか」
プールから上がった井上先輩も自分の結果を見て、ちょっと残念そうだ。
「浅野、わりいな。こんなんなるとは」
「いや、別にいいっすよ。相手あってのことですんで」
別に先輩に気兼ねしてるわけではない。
手を抜かれたんなら気分も悪いが、ちゃんと泳いでの結果なら問題は無いし。
