「よくやったな。早く上がれ」
上から兄北田の声が聞こえてきた。
「どうでした?」
電光掲示板に目をやる前に、プールから這い上がる。
「おお。トップで引き継いだぞ」
おお、やはりそうか。タイムはどうだった? と電光掲示板に目をやると
『1着 2コース 1:02:70』
「お! ベストだ!」
今までのベストタイムが1:03:22だから、0.5秒近く縮めた事になる。
「浅野君すごいよ!」
俺のタイムに村山は興奮している。
だろうな。自分で信じられないし。
プールに目を戻すと、井上先輩が必死に泳いでいる姿が目に入る。
「今日の井上先輩は、どうですかね」
「個人ではアベレージ出てないからな。どうかな」
ブレストで調子が悪いのに、フリーで絶好調にはならないか。
25m付近では、4コースに抜かれいるのは当然としても、3位争いから抜け出した5コースに追い抜かれ、代わりに6、7コースと3位争いをしている。
この後の75mで、この2人を抑え切れるのは厳しいか。
「けど次が村山ですから、井上先輩の分までカバーしてくれますよ」
「そんなあ。僕にはそんな事できないよ」
「村山よ。井上先輩は専門外でも頑張ってくれているのに、専門のお前が泣き言を言ってどうする?」
まあ専門外でも速い奴は多いが。
大河原なんて、市民大会ではバッタで総合1位を取っていたしな。
「そんな期待されても……」
どうやら村山は何か勘違いをしているらしい。
「誰も期待なんかしていない。期待できないから叱咤してるだけだ」
あれ? その場にしゃがみこんで、うじうじし始めた。
「お前はどこの初号機のパイロットだ? 間違っても包帯グルグルのパイロットや、ましてや眼帯アイドルとかは慰めに来ないぞ」
「何その眼帯アイドルって! そんな趣味無いから!」
そうなのか? 結構マニアック系かと想像してたんだが。
「そうか。浅野はロリコンメガネフェチで、村山は包帯ヲタクか。なんかやばい部活になりそうだな」
いや、兄北田よ。なんで俺にロリコンが入る?
