俺の怒りの意味を理解したんだろう。
「あ……ヒロ……浅野君……。ごめんなさい」
大塚はしょげ返りながら、謝っている。
寺尾は初めて見たんだろう、俺の怒る姿に、驚いている。
が、藤岡先輩は、やれやれ仕方ないわね、と言わんばかりの表情だが。
「先輩、すんません。ちょっと今は失礼します。また、後で」
そう言って、固まっていた寺尾の手を引くと、その場を後にした。
陣地に戻る途中、空いていた席で一旦止まり、寺尾を座らせた。
「気にする事はない。あれはあれ。本人が頑張っていれば、それでいいんだから」
しょげ返る様な、落ち込む様な感じの寺尾に、何と声を掛けていいのか分からない。
「いいよ。純子ちゃんの言う事は、ホントの事だし」
「いや、だからさ。別に他人より速く泳げようが、それは自己満足してれば良いだけだろ。皆が皆、決勝出たり、入賞したりするんじゃないし。寺尾は水泳好きなんだろ?」
寺尾はコクン、と頷く。
「だったらそれが一番。好きな水泳で、頑張って、楽しみながら泳ぐ。それで良いんだよ」
言いたい事が伝わったか、寺尾は俺を見上げながら、少しは笑顔になってくれた。
「ありがとう。やっぱり浅野君、優しいね」
だから、やっぱり、の意味が掴めないんだが。
「俺が優しいかどうかは知らんが、まあ中途半端な受け答えするから、大塚も今だにあれだしな」
冷たく突き放せれば一番なんだが、生憎、そこまでの根性がない。
「うん、浅野君だもん。それは仕方ないよ」
「何で俺だと仕方ないんだ?」
イマイチ寺尾の言いたい事が分からないが。
「だってね。浅野君は、女の子にあまいんだもん」
……えーと。場が何か違う方向へ進んでいる気がしますが。
「さつきちゃんに聞いたよ。県予選の話」
ああ、サブプールでの話か。
「なら、聞いたろ? 大塚にはちゃんと言ってあるって」
「うん、それは分かってるんだよ。でも……」
寺尾はそう言いながら、バツが悪いのか、下を向いた。
