フリーの決勝まではまだ時間もあるから、2人でドリンクを飲みながら、レースを観戦する。
「寺尾は、よく俺を覚えていたよな?」
俺が忘れっぽいのもあるだろうが、やはり中学一年の事は、あまり記憶にない。
「なんで急にそんな事言い出すの?」
おや? 何か聞いちゃいけないのか、慌てた口調だな。
「いや、なんかほら、中学時代の後輩やら先輩やらが登場して、少し懐かしがってみたんだが」
新キャラテコ入れなだけかもしれないけどね。
「よくよく考えて、藤岡先輩もそうだが、寺尾もそんなに話をした事ないよな?」
50人近い新入部員と、慣れない上下関係。
とてもじゃないが、女の子に目を向ける余裕は無かった。
もちろん、部活において、最低限の会話はしたであろうが。
「う〜ん、と。あ、浅野君、後でさくら先輩のとこ行かない?」
質問に質問で返しますか、何か隠してる証拠だ、が。
「俺一人でか?」
「違うよ〜。2人で、ね」
2人で行くなら、デートに行きたいが、まあここは軽く頷いて
「決勝終わったら、行くか」
と答えておこう。
少しして、女子100mフリーの決勝が始まった。
藤岡先輩は1コースに登場。
「やっぱり決勝は緊張するよね」
寺尾は自分が出るみたいにドキドキしている。
「だろうな。俺にはわからんが」
「あれ? 浅野君は決勝レース、出たことあるんでしょ?」
そう言えばそうか。
「だが緊張といえば緊張なんだが、それ以上にプレッシャーの方が大きかったからな」
北中は強豪中学だけに、入賞は個人の名誉よりも学校の名誉の為、といった雰囲気があった。
当然、出場選手に選ばれれば決勝に出なくてはいけないし、決勝に出れば入賞しなければいけない。
個人的な緊張感よりも、団体から掛けられる重圧の方が大きかった。
「そうなんだ? 私はよく分からないけど」
「いや、こんな気持ちは知らない方が幸せかもしれないぞ」
楽しく泳ぐ、それが一番だ。
