「浅野君、大丈夫?」
水着の上に白いTシャツを着込んだ寺尾が、ちょこんと隣に座る。
「まあ先生の言う通りだしな」
ここで落ち込んだ振りでもすれば、寺尾にひざ枕で慰めて……それは無いな。
「私の応援が少なかったかな?」
「いや、そうじゃないな。俺の気持ち的な問題だ」
寺尾に応援してもらいながら、イマイチやる気が出ないのは、完全に俺のメンタル面の問題だ。
「けど、せっかく出るんだから、頑張って欲しいし」
「すまんな、心配かけて。後のレースはちゃんとやるから」
それを聞いた寺尾はまた笑顔をみせる。
この笑顔を見たら、また頑張ろうという気になる。
やっぱりあれだ、可愛い子の笑顔を守るのが男ってもんだろ。
昼過ぎからはフリーの400mと個人メドレーがあり、その後は個人の決勝、少しの休憩時間を挟んでフリーリレー。
うちの高校は、リレーまでは空き時間だが。
「寺尾はどうするんだ?」
特に寺尾と一緒に何かしていようとか、少ししか思っていないが、とりあえず聞いてみた。
「え? このまま見てるよ。だってさくら先輩の決勝レースあるじゃない」
ああ、そうか。
藤岡先輩は予選総合7位で決勝に進出していたんだな。
「ところで藤岡先輩はどこの高校だったんだ?」
と尋ねると、寺尾はちょっと頬っぺたを膨らませながら答えてくれる。
「まったくもう。さくら先輩は桜坂女子だよ」
……ん? 何かついさっき聞いたような?
「そうか。名門じゃないか」
県内女子水泳有力5校の一つ。
近年は県立商業に押され気味ながら、個人では入賞する選手もいるし、学校別でもTOP3を維持している。
「でもね、いい選手が多いから、さくら先輩は今日で引退なんだって」
寺尾はそう寂しげに言う。
名門校とはよく言ったもので、それだけ多くの良い選手が集まれば、はじき出される選手も多い。
藤岡先輩はお世辞にも速い部類ではなく、市大会規模だから、決勝に出れたていうか。
「だから最後だし、しっかり見ておこう、と言う事か」
「うん!」
では俺もゆっくり観戦しますか。
