「島崎は今年は何に出てるんだ?」

 元来はフリー専門だったが、小学生時代にSSへ通っていて全種目バランスよく泳げるから、と、俺がいた時代には個人メドレーをやらされていたが。

「結局、今年も個人メドレーしか出させてもらえないですね」

 そう言って笑うが、ある意味、島崎も強豪校の被害者だな。

 自分の意見に関係なく、人数の都合で無理矢理専門を変えさせられるんだから。

「先輩は相変わらずフリーでしょ?」

「相変わらず、ってのが小バカにされているようだが。フリーはフリーでも長距離選手にさせられた模様だ」

 着替えを終え、スタンドへ戻る道でも島崎は着いてくる。

「羽鳥高校って、そんなに強豪でしたっけ?」

「悪気はないだろうが、その言い方はムカつくぞ?」

 島崎は部長に推薦され、こなしているだけあって人当たりはいいが、たまに考えなしなとこがある。

 それでも陽気な性格が幸いしてか、なんか憎めないんだよな。

「すみません。でも専門変えさせられたんでしょ?」

「まあそうだが、島崎の場合とは少し事情が違うからな。詳しくは解説席に聞いてくれ」

「解説席ですか? じゃあ、鈴木大地さん、よりは千葉すずさんに聞いてきます」

という不毛なやり取りができるのが島崎の長所だな。

「そこだけとか言わないでくださいよ」

「いや、それ以外は見当たらないが?」

「まだあります! 髪がサラサラだとか、爪がキレイだとか」

 また随分ピンポイントな長所を。

「浅野君、の周りは、面白いね」

「まあな。けど島崎は放射能で突然変異したゴジラみたいなもんだからな」

 実際こんな後輩ばかりなら、どれだけ楽しい中学時代だったことか。

「ていうか、先輩が一番突然変異でしたからね」

「そうか?」

「だって、大河原先輩に面と向かって言い返したの先輩だけでしょ」

 またその名前を出すか。

「仕方ないだろ。顧問からして大河原派閥だったんだから」

 全国大会出場選手となれば、贔屓したくなるんだろうが、そのしわ寄せを喰らう一般生徒は堪らない。