「はーい、みんな集まって」

 藤木先生の雄たけび……ならぬ掛け声がプールサイドに響き渡る。

「相変わらず赤点取ってた浅野! ちゃっちゃとする!」

 なんでわざわざ章変えてまで試験の話題をすっ飛ばしたのに、結果が分かるような言い方するかな?

「しょうがないよ、実際そうだったんだし」

 不貞腐れた態度が出てたのか、横に並んだ寺尾が小さな声で言ってくる。

「いいよな、誰かさんは自信がないとか言いながら、ちゃっかり赤点逃れてるし」

「え〜だって、それと浅野君の点数とは別に……」

 まあそう言われるとそうなんだが。

「ハイ、そこ。いちゃいちゃしない!」

 このやり取りのどこがいちゃいちゃに見えるのか、小一時間かけて説明してもらいたい。

「えー明日から市大会が始まるわけですが、うちの部にとっては唯一のチャンスだからね。分かってる?」

 夏休みの最初の土日に行われる市大会。

 うちのような弱小に分類される学校では、入賞の可能性があるのは、最も規模の小さい市大会となる。

 市大会の後の市民大会は、これも規模としては市の規模ながら、高校の部活には入らず、SSで水泳をやっている選手も出てくるから、当然入賞などは期待できない。

「特に浅野。君が出る1500mはエントリー選手が少ない種目なんだから、頑張れば入賞できるんだからね。分かってる?」

 俺は先の県予選と同じく、100mバタフライと1500mフリーにエントリー。

 今年はまだ分からないが、去年は1500mフリーにエントリーしたのはわずか10名。

 入賞は6位までだから、確かに狙い目ではあるだろう。

 県予選でも途中リタイヤした選手もいたぐらいだし。

「でも、一応泳げるようになっただけで、そんな速くは無理っすよ」

 いくら期待を込められても、それに答える技量が備わっていなければ無意味なわけで。

「男がごちゃごちゃ言わない! 黙って『任せといてください』くらい言えないの?」

 え? 黙って、けど任せろとは言え、と? 矛盾でしょ?

「とにかく! 明日は遅刻しないように!」

 こわっ!!