5分ほど歩くと、10階建程度であろうマンションが見えてきた。

「ここが私の住んでるマンションだよ」

 ほう、あーちゃん一家はマンション住まいでしたか。

 この辺はまだ市街地に近く、この手のマンションが多いもんな。

「でね、浅野君。私の家もここなの」

 ……はい? 寺尾さん、今なんと言いました?

「ちょっと待て。そんな話は聞いてないぞ」

「うん。聞かれてないから言ってないもん」

 あーちゃんは悪びれる様子もない。

「どっちからも何も、送ってくれば、ここに辿り着く、と言うわけだな?」

「そういうこと。でも浅野君は私を先に送ってって、その後、由美に何しようとしてたのかな?」

 おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。

「あーちゃん、いいから早く入ろうよ」

 寺尾は気まずいのか恥ずかしいのか、あーちゃんの手を引っ張りながら玄関ホールへと向かう。

「浅野君、送ってくれてありがとうね。また明日頑張ろうね」

 そう早口でまくし立てて、二人はエレベータの中へと消えていった。

 まったく。あーちゃんにはしてやられたわけですね。