「ん? いや、誰もあーちゃんは好みの対象外だからまだ名前を覚えていない、なんてことは頭の片隅くらいにしか思っていないけど」

 おお、我ながらナイスフォロー。

 のはずが

『バシッ!!』

 あたー! なんで頭叩かれんだよ。

「どうせ私は由美みたいに可愛くありませんよーだ」

「いや、誰もそんなことは言ってない。ただ好みの……」

「じゃあ由美は?」

 ええい! 俺の言葉を遮るな! しかも本人の前で微妙な質問をするんじゃない!

「やめてよ、あーちゃん」

 お? さすがに寺尾も気恥ずかしいのか止めてきた。

「いいのよ、こういうの早めにはっきりさせとかないとね」

 誰理論だか知らないが、そんな話は聞いたことないんだが。

「それに答える権利はあっても義務はないと思うが?」

『バシッ!』

 いてて……本日二度目。

「男がうじうじしないの! で、どうなの?」

 糾弾される意味が解らない。

「いや、そんな、えーと、どうよ?」

 答えられるわけもないから、村山に振ってみた。

「え? 僕? 僕は……」

 村山はもじもじしながら、ちらっと寺尾の方を見る。

 ふむ、この感じからすると、村山から見ても可愛いのだろう。

「おー! 人が居るじゃないか!」

 と、そこにマラソンから帰ってきたであろう、先輩達の声が聞こえる。

 何てグッドタイミング。一生付いて行きます。

「あら、男子2人も? 嬉しいわねぇ」

 あ、さっき演壇に居た部長さんだ。

 確か名前は伊藤さんだっけ。

 さすがに水泳部らしくショートカットが良く似合う。

「どれどれ。あっ! 村山君じゃない」

 伊藤部長の後から入ってきた女性はどうやら村山を知っている様子。

「あ! 瀬戸先輩!」

 ん? 村山が大声で挨拶を返すなんて……どんな関係だ?

「あの先輩が村山の言っていた先輩か?」

 多分、そうだろ、とは分かるが、とりあえず確認。

「うん、瀬戸先輩。中学の時の……」

 と語尾を濁す村山。

 何か言いにくい事でもあるのか?