「でもここからはやばいぞ」
近藤先輩が言うと何かあるのか? と思わせるんだが。
「ああ、4コースな。あいつにはやられるかもな」
兄北田は近藤先輩の言わんとするところを理解したようだが?
「あの4コースは俺の中学の知り合い。結構速い子やぞ」
と朝倉先輩が言ってくる。
県内の高校にいる以上、中学時代の部活仲間が出てくるのは普通か。
「個人でも市大会入賞とかしたし、今回も決勝レースには出たしな」
それはすごい。しかしそんな選手がなんでメドレーリレーとはいえ、予選1組?
「スポ根マンガの読みすぎで『弱小水泳部に入って全国制覇する学校に育て上げる!』とか言ってたな」
いいねえ、青春っぽくて。
「ホントは公立入試の日に電車乗り過ごして、試験に遅刻したからなんだけどな」
……そんなベタな遅刻、それもマンガの影響なんだろうか?
「浅野は試験に遅刻しなかったんだな。それだけはあいつより上って事だ」
だから! 俺をオチに使うなって!
朝倉先輩の言う通り、4コースはグイグイ差を詰め寄り、25mラインでは2コースに並んでいる。
「やっぱりあいつは凄いわ」
「ちなみに個人は何位だったんですか?」
特に知り合いでもないし、専門種目でもない俺は当然知らない。
「ん? 決勝には出てたけど……何位だっけ?」
「知らないんすか?」
「そりゃおめー、近藤が矢倉さん見てるのと違うしな。たまたま決勝出たの見ただけやし」
ん、まあそう言われればそうなんだが。
そんな間にも、3位を泳ぐ飯島先輩のすぐ横にぴったり着く4コースの……?
「名前、誰さんでしたっけ?」
「柳沢ミチルだよ。親が外国人っぽい名前付けたい、とか言って、ミッチェルを基にミチルにしたらしい」
つか、まずもってミッチェルって誰よ? 親のセンスに脱帽だな。
4コースの柳沢さんは飯島先輩に並んだ、という間もなく華麗にスルーしていく。
「さすがに専門バッタやな。メドレーバッタなんか相手にならん」
バッタに限らず、専門選手とメドレー要員では、ケータイ小説大賞と一次選考通過くらいの差があるからなあ。
