ブルー・フィールド

 
 ブレストは飛び込みとターンの後の水中戦がかなり重要……らしい。

 らしい、と言うのは、自分の専門分野外だから詳しくない、なんて投げやりな事を言える程大人ではない。

 ブレストには一掻き一蹴り一呼吸のルールがある為、通常の泳ぎでは、上半身が水面より上に出る。

 水面と接する面積が広い方が、当然、勢いを殺す事になる。

 だから、飛び込み後の、潜水中の両手を前に出した、蜂矢の格好の時が一番進む。

 その次が、ブレストで手が掻き終わり、両手を身体にピッタリと付けた、人間魚雷の格好。

 ブレストの場合、潜水中では一掻き一蹴りしか許されていないから、いかにその一回の動作でスピードを上げ、距離を稼ぐか、が鍵になる。

 と中学の先輩は言っていた。

 違っていたら苦情はあの先輩まで。

「てかその先輩って誰?」

 朝倉先輩? 今のは会話部分じゃないですけど?


 ターンを終えた3選手。

 水面から顔を出した位置とそれぞれの差から見ると、伊藤部長のターンはいい感じだったようだ。

 そりゃ通産6年目になる専門種目、簡単なミスはしないよな。

 2コースとの差は縮まりつつあるが、ターンで差を広げたはずの7コースもまた盛り返してきて、3選手がかなり近付いてきた。

 カメラアングルによっては横一線にも見える位置関係だ。

「ここからだよな。部長はスタミナ無いから」

「でも100mっすよ?」

 200mだったり、個人レースの直後なら分かるが。

 今日のレースは、当たり前だが午前中に終わったし、休養は十分なはず。

「部長は本番では緊張しすぎで、普通より三倍疲れる人だから」

「その普通の基準は?」

「当社比に決まってんだろ」

「浅野比なら、億万倍だな」

 なんで俺が引き合いにでるんだよ! しかも悪い意味で!