サブプールに着き、まずは鮎川が50mを泳いでくる。
「私の泳ぎってどう?」
「良く考えたら、俺バックはわかんないわ」
「ちょっと! なんで?」
「だって、俺だって中学でフリー専門だったわけだし、バックなんて練習でちょろっと泳いだだけだし」
「だったらなんでさっきそう言わないのよ?」
「なんか……勢い? ってかヒマだったし」
あれ? 鮎川の背後に悪魔の影が……ドズルさんですか?
「人がレース前に必死で泳いだって言うのに……」
『バゴッ!』
くっ! 苦しい。みぞおちに渾身のストレートが。
「まったく。じゃあ次はさつきちゃんのバッタだからね。バッタは大丈夫なんでしょ?」
「はがごげひごが」
腹に力が入らないから人語にならない。
「何? まあいいわ。じゃさつきちゃん、どうぞ」
俺に向けた悪鬼の形相から一変、天使の笑顔を振りまく鮎川。
二重人格者め。
さて、西岡。
初心者ながらも中学時代は陸上部で長距離をやっていたらしく、体力的な問題はない。
本人のやる気も十分だし、高校生の部活レベルなら、普通のところまではいけるだろう。
「どう? 浅野君から見て」
「うん、長髪は切った方が、いや、あれはあれで良いかも?」
「また鉄拳喰らいたいのかな?」
「ハハハ……目がマジっすよ。いや、まあ初心者としては十分でしょ。まだ2ヶ月も経ってないんだし」
いくら毎日練習していても、初心者がまともなバッタをマスターするには、ワンシーズンはかかるであろう。
俺も中一の時はフリーで手一杯で、バッタをやればおぼれてる、って言われてたし。
「さつきちゃん、早く大会に出たいって言ってるけど、無理かな?」
「新人戦には間に合うだろうけど、その前はきつくないか?」
新人戦は毎年9月の敬老の日前辺りに行われている。
その時期ならまだしも、8月の盆前にある大会はきついと思うが。
「何か理由でもあるのか?」
「彼氏が出来たから、良いとこ見せたいんだって」
なんて青春な理由だ。
ってか普通は彼女が出来た男が言うセリフだろ?
