「それでは、自己紹介をしていこうか。まずは先生から……」

 入学式の後、それぞれに割り振られた教室で、担任であろ30代の男性教諭の話しを聞く。

 新クラス早々自己紹介をされたところで覚え切れるものでもないが、それは言っても仕方ないことか。

 俺のいた中学からこの高校へ進学したのは7人。

 8つあるクラスにうまく散らされたらしく、この1組にいるのは俺一人。

 担任の自己紹介の直ぐ後、俺の番となる。

 小学校時代から慣れているから、別に苦にはならないけど。

「えっと、浅野弘樹です。北中からきました」

 クラスメイトになる奴らがどんなタイプかわからないのに、ふざけたりネタをふったりできる訳もない。

 ごく当たり前の自己紹介を終えて席に座った。

 が。

 どこからか視線を感じる。

 ゴルゴでない俺には、視線を辿らずに発信源を掴む事は不可能だ。

 他のクラスメイトが自己紹介をしているのを見ているフリをして、視線の元を辿る。

 と辿り着いたのは、可愛い女の子。

 セミロングの髪は、染めたり抜いたりしていない、純粋な日本髪に光り、遠目に見てもサラサラと音が響いてきそうだ。

 顔立ちは幼く、スラリと引き締まった顎のライン。

 ちょっと低めの鼻が可愛いらしさを際立てている。

 そして何より銀縁フレームの眼鏡の奥、遠目に見ても透き通った黒い瞳。

 不意に目が合った様で、女の子も視線を逸らした。

 その仕草も、照れた様な恥ずかしがる様な感じで、なんか可愛い。

 ぶっちゃけ一目惚れしそうな勢い、ってか一目惚れしたかもしれない。

 けど……あの子は俺を知っているのか?